おすすめの本

毎年、月刊みすずの1・2月合併号で、その年に読んだ書物のうち、とくに興味をもったものをあげています。

ここでは、その読者アンケートを転載しています。みすず書房さん、おゆるしを!

2017

永山則夫 封印された鑑定記録

堀川惠子

講談社文庫

2017

圧倒的な取材量。つっこむところはちゃんとつっこみつつも、取材対象者や周囲への敬意と配慮にあふれている。一般の精神医学専門家や心理学専門家より、よほど人間のこころや行動の複雑さを深いところから理解しているように思う。堀川さんとの対談が、来年の「そだちの科学」に載る予定です。お楽しみに。

中井久夫 精神科医のことばと作法

文藝別冊

河出書房新社

2017

著名な精神科医の中井久夫の著作について、さまざまな領域の人たちが論じている。精神医学や心理学のみならず、人文社会科学系の研究者、編集者など多彩な顔ぶれで、いずれも中井への愛にあふれている。中井の膨大な著作をどう解読するのか、ヒントがいっぱい。寄稿のほか、著作目録や対談再録などの「コレクション」で構成されている。

あかるい時間に

丸田麻保子

ふらんす堂

2017 

著者の第一詩集。言葉がていねいに深く、届いていく。喪失と僥倖、躊躇と逡巡。そういったことをめぐる、言葉にならないような時間と空間に。

舵を弾く

三角みづ紀

思潮社

2015

これも詩集。「もうすぐ聞こえるから 黙っておいて」・・・なんという的確な表現。言葉の選び方、並び方、すべてが必然に思えて、貴重な一冊。触発される。表紙も美しい。

ジェンダー研究を継承する

佐藤文香・伊藤るり編

人文書院

2017

 熟達したジェンダー研究者たちを、若手のジェンダー研究者たちが、さまざまな角度からインタビューするというもの。日本現代史と個人史が、世代間の対話によって、立体的に浮き彫りになる。同時代を生きる研究者たちの生の『厚い記述』がここにある。



2016

ラガ:見えない大陸への接近

ル・クレジオ著

管啓次郎訳

岩波書店

2016

オセアニア、南太平洋の島々。楽園のような風景にひそむ様々な暴力の傷跡。ヨーロッパによる侵略の歴史への厳しい視線を維持しつつ、海をわたって行き来する人間の歴史的な営みを、詩的に描いている。夜の9時過ぎまで明るく、また、一日でも目まぐるしく天気が変わり、風や雲の流れが鮮烈に感じられるアオテアロアの土地で,この本を読めたのは僥倖。

Christchurch Ruptures

Katie Pickles

BWB Books

2016

  

東日本大震災の直前におきたカンタベリー大地震の爪痕は、今も生々しくクライストチャーチに残っている。大地震を大英帝国の歴史の亀裂ととらえ、エコロジカルな側面も含めて、復興の行方を分析する歴史家の仕事がこの本である。災害に社会がどう向きあうかをグローバルに捉える上で役立つとともに、東日本大震災とその復興を相対化して見る視点も与えてくれる。カンタベリー大地震の後の、街の復興に関わったNPO団体へのインタビュー集 “Holding hope together” Council of social services in Christchurch 2014も興味深かった。

My Story

Louise Nicholas with Philip Kitchin

Random House New Zealand

2014

  

ティーンエイジャーの時に複数の警察官から性的暴行をうけたルイーズ・ニコラス。その後,法廷でも二次被害を受け続け、加害者は無罪放免。うやむやにされていた事件は、熱意あるジャーナリストによって掘り起こされるが、その後も波乱万丈の展開をみせる。現在は、彼女の名前を冠したコースがニュージーランドの警察官の研修に組み入れられているが、そこまでの道のりは長かった。被害者バッシングや、警察内部での調査の難しさ、刑事司法の問題点などは日本にも共通するものがあり、参考になる。ニュージーランドでは有名な事件で、映画化もされている。

Things That Matter: Stories of Life & Death

David Galler

Allen & Unwin

2016 

 

ICU(集中治療室)の医師による、機知にとんだエッセイ。飛行機の中で急病人を救った話や、臓器移植のドラマティックな展開など、医療の光の部分も見せつつ、肥満の急激な増大、高齢化がもたらす苦悩などについても、現場ならでは描写と分析がなされている。臓器の解剖学的な説明や、具体的な介入技法なども細かく書かれているのだが、そこに人間の身体への敬意があふれていて、共感を覚えた。

Late Love

Glenn Colquhoun

BWB Books

2016

  

これも医師によるエッセイ。ニュージーランドはイギリスと同様,公的医療システムが機能を果たしているが、ネオリベラリズムの波もおしよせている。どちらにおいても、医師は効率よく多くの患者を診ることが求められる被雇用者でしかなくなりつつある。貧困層の若者を主に診てきた著者はその流れに疲れ果て、週3日を医師として働き、あと週2日はボランティアとして,同じコミュニティで働くことにする。一緒に料理をしたりしながら、丁寧に若者達と向きあっていく中で、詩人でもある著者は仕事への喜びを取り戻していく。



2015

あいまいな喪失とトラウマからの回復ー家族とコミュニティのレジリエンス

ポーリン・ボス著

中島聡美・石井千賀子訳

誠信書房

2015

(=Boss, P.2006Loss, trauma, and resilience: therapeutic work with ambiguous loss. W. W. Norton & Company 

 

あいまいな喪失とは、たとえば津波で家族が行方不明というような状況のことを言う。現在進行形の困難や、終わりの見えないトラウマ的状況のなかで、人はどうやって生活を営み続けられるのか。また、そういう人たちをどうやってサポートし続けられるのか。そのための知恵がこの本にはたくさん詰まっている。

幻の朱い実(上下巻)

石井桃子

岩波現代文庫

2015

 

久々に至福の読書の時間だった。主人公のひたむきさと、女友だちとの愛情に近い友情関係。自分らしさを失わずに生きていくためには、心からわかりあえる相手と、言葉を紡ぎあいつづける時間が必要なのだとつくづく納得した。二人の手紙のやりとりは、戦前なのだが、速達便や電報までつかって現在のメールのようにスピード感に溢れている。川上弘美の解説も良い。ちなみにこの本と次の本は、昨年の『みすず』「読書アンケート」から見つけた。

詩とは何なのか。詩はなぜ恥ずかしいのか。詩的思考や詩的表現がなぜ大切なのか。さまざまな領域のさまざまな文体を読みこなしていかなければならない仕事のなかで、しばしば激しく渇きを感じ、けれど思いがけず潤されたり癒されたりすることもある。言葉の豊かさを味わい、かみしめることの喜びに改めて気づく。それは次の、伝達にもつながっていく。著者の文章自体が平明でありながら、とても美しい。

漢方水先案内ー医学の東へ

津田篤太郎

医学書院

2015

 

西洋医学は、死なないけれども治らない病気を苦手としている。医師である著者は、そういう病気をかかえた患者さんたちの前で困り果て、自己免疫疾患を専門にしつつも、漢方医学の研鑽の旅へと乗り出した。著者が見出したのは、慢性疾患との付き合いのなかでは時間を味方につけるのが重要であるということと、漢方は臨床における作法である、ということである。長期的な時間軸を見据えたスケールの大きな治療論と、触診などを重視した細やかな臨床技術が不思議に溶け合って、これからの医療のあり方を指し示してくれている。

旅立つ理由

旦敬介

岩波書店

2013

 

グローバル化がどれだけ進んでも、世界のあちこちには、あちこちのままの生活文化や風景が広がっている。人々は、全く異なる食べ物を食べ、異なる言葉を話し、異なる空間感覚や時間のなかで生きている。旅人は、そのなかに入り込み、行き惑い、あわてたり、びっくりしたり、ほっとしたりする。現地の人々もまた、旅人を迎え入れ、とまどったり、怒ったり、楽しんだりする。ひとつひとつのエピソードがとても印象的で、興味深い。自分の常識がくつがえされ、五感がめざめさせられるような旅にまた出かけたくなる。



2014

アメリカで親元から離れ大学に入って、精神的バランスを崩し、そのときに抗うつ剤を処方され、長く服用し続けてきた女性が書いた本。アメリカ社会がどのように人々に明るく陽気でいることを求めているか、抗うつ剤の功罪も絡め、バランスよく書かれている。

内向的人間の時代:社会を変える静かな人の力

スーザン・ケイン著

古草秀子訳

講談社

2013

 

原題は、Quiet(静けさ)。内向性と内省性、高反応、単独性など少しずつ異なる軸が、最終的には内向/外向の二分法に分けられてしまうのが気になるが、偽外向型にとっては慰められ、癒される本。これも本人の経験がベースになっている。

今年初めてお会いする機会があり、治療者のたたずまいが人をいかに癒すかということを悟った。その上で本書を読み直してみると、阪神淡路大震災の後、著者が神戸大学精神科にボランティアにいき、状況に圧倒されつつ行ったことが、医局で温かい鍋を用意することだったということの意味が深く理解できた。心を鎮めたり落ち着かせたり、時には引き上げたりすることは、要するに、脳の調律であり心身の調律であり、関係の調律である。

自傷・自殺する子供どもたち

松本俊彦

合同出版

2014

 

自傷や自殺未遂など、ぎりぎりのところにいる子どもたちの視点から、信頼できる大人や援助者にどうすればなれるのかを具体的に書いている本。

男子の性教育:柔らかな関係づくりのために

村瀬幸浩

大修館書店

2014 

 

長年にわたる大学でのヒューマン・セクソロジーの講義経験をもとに、攻撃的とされる男性の性の陰に、多くの男子が自分の性についてネガティヴな意識を持っていることや、男子・男性は「性の学びから阻害され、放置放任され、その結果孤立し傷つけ、傷つけられてきた」こと、男性が変われば「関係」は変わっていくことがきわめて説得的に書かれている。



丁寧な取材により当事者とつながりながら、ひきこもりという日本社会の抱える大きな、かつ長期化する問題についてビビッドに描いている。

「ひきこもり」に何を見るかーグローバル化する世界と孤立する個人ー 

鈴木國文・古橋忠晃・ナターシャ・ヴェルー著

青土社

2014

 

こちらも、日仏共同研究の成果で、興味深い。

 女のせりふ

伊藤雅子

福音館書店

 2014

  

1985年から1995年の10年間、著者は、女性の言葉を拾い続けてきた。それらは今読んでも瑞々しく、より新しい感さえある。女性たちが言葉の力を奪われていかないように、ぜひ次の世代へこれらの言葉が伝わっていってほしい。

続・女のせりふ

伊藤雅子

福音館書店

2014

 

1985年から1995年の10年間、著者は、女性の言葉を拾い続けてきた。それらは今読んでも瑞々しく、より新しい感さえある。女性たちが言葉の力を奪われていかないように、ぜひ次の世代へこれらの言葉が伝わっていってほしい。

からだのスピリチュアリティ

アレクサンダー・ローニン著

村本詔司・国永史子訳

春秋社

19942005

 

本棚を眺めていたら目が合って久しぶりに取り出した。心身についてホーリスティックに扱うこのような良書があったのだ、と思う。大量の新刊本の流れの中に埋もれず、読み継がれていくべきものが残っていくことを願う。



2013

From trauma through dissociation to psychosis; understanding and treating psychotic symptoms from a trauma/ dissociation perspective

Andrew Moskowitz 

 

ESTSS (European Society for Traumatic Stress Studies)でのワークショップ。トラウマと解離について理解を深めるのにとても役立ちました。著者名で検索してみてください。

Preliminary evidence for neurobiological consequences of exposure to childhood maltreatment on regional brain development

Martin H. Teicher

 

日本心理学会での公開講演。トラウマと解離について理解を深めるのにとても役立ちました。著者名で検索してみてください。

脳から見える心ー臨床心理に生かす脳科学

岡野憲一郎

岩崎学術出版社

2013

 

脳科学の知見が臨床現場でどういう意味をもちうるのかを示していて、よいです。

旅に関しては、こちら。かわいくて、深い本。日本語や本屋をとおして、世界の<端っこ>をあちこち訪ねることができます。

養生本としては、こちら。体調を整えるのに役立ちます。壁を利用するので、無理な姿勢にならず、やさしいヨガです。こころなしか、身体が少しずつ変わってきたかも。男性には、少しつらい姿勢もあるかな。同じ著者の『リラックスお家ヨガプログラム』もありますが、そちらはイマイチ。

ほかに、津田篤太郎/森まゆみ『未来の漢方』、神田橋條治『精神科養生のコツ』もいいです。



未来の漢方ーユニバースとコスモスの医学

津田篤太郎/森まゆみ

亜紀書房

2013

 

養生本として、おすすめ。

改訂 精神科養生のコツ

神田橋條治

岩崎学術出版社

2009

 

養生本として、おすすめ。

みすず 読者アンケート特集

みすず書房

(毎年のバックナンバー)

 

ごぞんじ、このアンケート特集。その年の新刊書じゃなくていいところが魅力。形式が決まっていないので、書き手の個性が豊か。その時々の心情を吐露したものや、自己宣伝に近いもの、自分の好みというより自分の領域で読んでほしいものの紹介など、さまざま。この人がこの著者を勧めていたのか、といった、隠れた精神的系譜も見えてきます。

大奥

よしながふみ

白泉社

2005

まんがは、やはり、よしながふみの『大奥』。女らしさ、男らしさについての思いこみを試されます。

聖☆おにいさん

中村光

講談社

2008

イエス・キリストとブッダが立川で貧乏共同生活を送る『聖(セイント)おにいさん』もおもしろいです。




2012

心的外傷と回復【増補版】

ジュディス・L・ハーマン著

中井久夫訳

みすず書房

1999

 

眼が疲れやすいこともあって、あまり本を読めていません。でも新書『トラウマ』執筆のため、いろんな本を読み返すことになりました。やっぱりすごいと思ったのは、『心的外傷と回復 増補版』、『解離ー若年期における病理と治療』、『トラウマの心理学ー心の傷と向きあう方法』などです。サリバンも読み込みたかったけど、時間切れでした。

解離ー若年期における病理と治療【新装版】

フランク・W・パトナム著

中井久夫訳

みすず書房

2017

共感の時代へー動物行動学が教えてくれること

フランス・ドゥ・ヴァール著

柴田裕之訳

紀伊國屋書店

2010

執筆しながら、社会脳とトラウマ(特に関係性トラウマ)との関わりにひきこまれました。『共感の時代へー動物行動学が教えてくれること』、『SQ 生きかたの知能指数ーほんとうの「頭の良さ」とは何か』などが入門書的に役に立ちましたが、もっといい本が出ていると思います。誰か教えてください。

SQ 生きかたの知能指数ーほんとうの「頭の良さ」とは何か

ダニエル・コールマン著

土屋京子訳

日本経済新聞出版社社

2007

 



雪の練習生

 

多和田葉子

新潮社

2013

 

小説は『雪の練習生』。

困ってるひと

大野更

 

ポプラ社

2011

 

 

ノンフィクションは『困ってるひと』、『原発危機と「東大話法」』、『日本を降りる若者たち』などが興味深かったです。雑誌『風の旅人』が復刊したのは朗報です。

日本を降りる若者たち

下川裕治

講談社

2007

 

プ〜ねこ

北道正幸

講談社

2005

 

番外、まんが。『プ〜ねこ』。ゆるみます。西炯子も、笑いのつぼにはまりました。



2011

冠婚葬祭のひみつ

斎藤美奈子

岩波書店

2006

 

2011年は大変な年でした。新刊にはほとんど気持ちが動きませんでした(と言いつつ、自分も書いてしまいましたが・・・)。

2月に父が亡くなる前後に、看取りや葬式関連の本を山ほど読みました。そのうちのひとつ、『冠婚葬祭のひみつ』は、冠婚葬祭マニュアル本という、絶対書評にあげられない本たちを批評したユニークな本です。マニュアル本は既存のマニュアル本からの寄せ集めが多いそうです。なのに、それを参考にした読者によって、また現実が作られていくという皮肉。でも、出版5年後の今読むと、冠婚葬祭にも大きな変化がおしよせており、日本の社会や家族が大きな変動期にあることに、あらためて気づかされました。

震災後は、心のケア関係の本がたくさん出ましたが、故・安克昌さん『【増補改訂版】心の傷を癒すということ』を、あえてお勧めしたいです。阪神大震災と東日本大震災とは違うと言われるけれど、心の傷に寄り添う営みの原点は変わりません。

風が強く吹いている

三浦しをん

新潮社

 2009

  

夏は、現実から少し逃避したくて、軽いフィクション本しか読めませんでした。息抜きに良かったのが、三浦しをんの青春小説『風が強く吹いている』。非現実的ではあるけど、気持ちが軽くなり、風上に向かって走り出したくなりました。上橋菜穂子【獣の奏者』シリーズ(講談社2006, 2009)は、ファンタジーの世界に逃げようと読み始めましたが、王獣や闘蛇が核兵器のメタファーのようにも思えて、人間の深い業が作り出す現実のいびつな世界を映し出しているようで、深く受け止めることになりました。

動物のお医者さん

佐々木倫子

白泉社

2005

 

秋は、たまっていた疲れをほぐしたくて、佐々木倫子『動物のお医者さん』を本棚から取り出し、笑い転げました。もはや日本の古典的文学遺産です。ついでに、自動相談所を舞台にしたTVドラマ「ドン・キホーテ」も、ラテン系のノリでおもしろかったです。ユーモアはだいじです。

逸脱の精神史

酒井明夫

日本評論社

2007

冬、ようやく専門書を読むエネルギーが戻ってきました。楽しかったのが、酒井明夫『逸脱の精神史』。酒、魔女狩り、恋愛、不眠、自殺、老い、精神療法など、興味深いテーマが並んでいます。さらっとした文体の中に、ものすごく重厚な歴史知識と解釈がつまっています。その上、ところどころクスッと笑えます。岩手での震災後の心のケアで大変だと思いますが、こういう時こそ、長い時間的視野が求められていると思うので、続編を期待したいです。